ドラゴンはまだ眠らない

「大いなる声」にインスパイアされて書かれた預言書

留学の場所にアメリカを選んだ訳

俺がアメリカを選んだのは、西洋、特にアメリカに対してのコンプレックスがあったからである。

アメリカは自分にとって幼い頃からのトラウマであった。

昭和50年代、俺たちの地域では、小学生の子供は『はだしのゲン』という漫画を元にしたアニメを観させられていた。(今はどうだか知らないが、トラウマになるという理由で中止になったと聞いたことがある。俺は、これも大事な教育の一環だと思うので、見せるべきだと思う)

この映画はとにかく表現がエグい。さっきまで主人公の小学生の少年ゲンが話していた近所のおばさんが、原爆が投下されピカッと光ってドンと爆発した瞬間、皮膚が溶けて眼球が落ち、熱線でゾンビのようにグチャグチャになったかと思うと、一瞬で溶けてなくなってしまうような描写がまともに映し出される。

日本はこんな恐ろしい核爆弾を2発落とされ、無条件降伏したことを子供の頃から教わっていた。資源のない日本は、栄養も足りておらず、アメリカには絶対に勝てないのに、日本の軍部は根性論で国民を洗脳して勝てると思い込ませ、ズタボロにされてやっと現実を思い知るという最悪の出来事が日本の歴史に刻まれていると教わった。

その時点で、加害者である国アメリカを許せるはずもなかった。

90年代になり、少年になった俺は、アメリカの華やかなイメージを植えつけられた。悔しいが、経済においても、スポーツにしても、体格や身体能力にしても、日本人はアメリカ人には絶対に叶わないと思っていた。

少年きの俺にとってアメリカという国は、絶対に勝てないネメシスだったのだ。

英語も大嫌いで、中学では5段階評価の1という成績を取ったこともある。高校の頃、教師に対する暴力事件を起こして退学になりかけた相手も、一番嫌いな英語の先生だった。

アメリカは、自分たちが世界の中心だと言わんばかりに世界中で幅を利かし、自分たちは日本に落とした原爆より何十倍も強力な核爆弾をごまんと保有しているのにも関わらず、他の国が持っていると、その国を悪の根源だと決めつけ、保有するなとプレッシャーをかける。

矛盾だらけだが自分たちの正義を信じて疑わない国。日本でも英語を話せない奴はバカだと言わんばかりに振る舞う傲慢なアメリカ民族。

空襲で多くの日本人の命を奪っておいて、謝罪もできない国。

それなのに、ハリウッド映画やディズニー映画、マクドナルドやコーラ、コルベットなどのアメ車など、カッコいいものは一杯有る。悔しいけど事実として受け入れざるを得ない。

誰がなんと言おうと、世界一豊かな国。

そんな嫌悪と羨望の入り混じった小さな東洋人の劣等感を持って俺は育った。

アメリカという国に行こうと思ったのは、思春期からみんな苦しみ悩む人生の最大のテーマの一つ、コンプレックスを克服するには、日本で起こっている小さな問題、例えば周りより少々背が低いとか、顔が悪いとか、頭が悪いとか、女にモテないとか、そんなことよりもっとどうしようもない劣等感の中に身を投じ、そこで生きるか死ぬかの修羅場を超えていく体験をするしかないと思ったからだ。